• HOME
  • コラム
  • 世界初の忠犬アルゴス。神話の中の忠犬「アルゴス」の歴史と伝説

世界初の忠犬アルゴス。神話の中の忠犬「アルゴス」の歴史と伝説

コラム

感動を誘う忠犬と言えば、日本国内ではハチ公があまりにも有名で、渋谷駅前の銅像も広く親しまれていますが、中堅にまつわる伝説は日本以外にも残っています。
今回は世界初の忠犬として神話に登場する「アルゴス」の歴史を紐解き、アルゴスが残したストーリー、そして伝説について知っていきましょう。

世界初の忠犬アルゴス。神話の中の忠犬「アルゴス」の歴史と伝説

アルゴスは英雄オデュッセウスの愛犬

アルゴスの飼い主は、ギリシア神話に英雄として登場するイケタの王、さらにはオデュッセイアの主人公としても描かれたオデュッセウスです
オデュッセウスは策士として知られる一方で俊足の持ち主でもあり、若い頃からしばしば獣狩りに出掛けては成果を上げていたと言います。
そのオデュッセウスの愛犬として獣狩りの際に行動を共にし、研ぎ澄まされた嗅覚と聴覚、そしてオデュッセウスに相応しい走力を発揮するパートナーがアルゴスでした。

オデュッセウスは、あの有名な「トロイの木馬」を立案して10年間に渡って続いたトロイア戦争を終結へと導いた英雄でもあります。
アルゴスと共に過ごした故郷であるイケタを離れて10年、そしてそこからイケタに帰るまでのもう10年、合計20年間もの間、イケタを留守にしていたオデュッセウス。
オデュッセウス不在の間、故郷はすっかり荒れ果ててしまっており、アルゴスを巡る環境にも大きな変化が起こっていたのでした。

主人の帰りをひたすらに待っていたアルゴス

オデュッセウスの近況を掴めないのを良いことに、オデュッセウスの屋敷には島の内外から多くの荒くれ物が侵入し、傍若無人な態度を取るようになっていました。
貯えていた食料のほとんどが食い荒らされてしまう有様で、跡取りのテレマコスはおろか、オデュッセウスの妻であるペネロペすら全く成す術がありません。
彼らにアルゴスの面倒を見たり、手間をかけたりする余裕などあるはずもなく、アルゴスにできるのはただ静かに死の瞬間を待つことだけだったのです。

そんなある日、オデュッセウスの館をみすぼらしい一人の老人が、羊飼いであるユーマイオスによって導かれて現れました。
誰もこの老人を気に留めようともしませんでしたが、アルゴスはその老人を見つめると横たわったまま尻尾を振り、そして両耳を垂れたのです。

実はこの老人こそが、館の主人でありアルゴスの飼い主でもあるオデュッセウスその人でした。
オデュッセウスは留守中のイケタの惨状を知り、誰に悟られることもない変装をして、ひっそりと自宅に戻ってきたのです。
アルゴスは既に自分の力では立ち上がれないほど衰弱しきっていましたが、20年姿を見せることのなかった主人のことは、例え変装した姿でも忘れることがありませんでした。

感動の再会、そして二人を待つ運命

アルゴスの年齢は詳しく描かれていませんが、オデュッセウスは20年間もイケタを留守にしていたのですから、20歳だとしても人間の年齢に換算すると約100歳になります。
しかも劣悪な環境に身を置いていたのですから、その苦労や心身に及ぶ悪影響たるや、我々の想像に及ばない範囲にあることは明白と言えるでしょう。
かつての主人の姿に気付いたアルゴスですが、オデュッセウスの元に駆け寄る元気などもはや無く、その眼は半分ほどしか開かず、首はもたげていたといいます。

そんなアルゴスの姿に一番の感動を覚えたのはオデュッセウス本人であり、変わり果てたアルゴスの姿を目の当たりにし、思わず涙を浮かべました。
やっとの思いで再会を果たした二人でしたが、運命とは残酷なもので、神はそれ以上の時間を二人に与えることを望みませんでした。
アルゴスはオデュッセウスを見つめると幸せそうな笑みを浮かべ、かろうじて開いていた瞳を静かに閉じ、その瞳が再び開くことは二度となかったのです。

アルゴスの死を目の当たりにしたオデュッセウスは、羊飼いのユーマイオスに対して静かに語り掛けます。
「ユーマイオスよ、こいつは汚物にまみれて眠ってはいるが、なんて素晴らしい犬だ。だが今やもはや、本当に足の速い犬だったのかさえ分からない」
そしてユーマイオスは「もしもイケタを出たその日のままの姿なら、誰もが驚くような足の速さをみんなに見せていたことだろう」と返したのでした。

その他にも残る忠犬の伝説

このように、忠犬ハチ公のような感動的なお話がギリシア神話にもあり、世代を超えて多くの人の涙を誘っていることが分かりました。
アルゴスとオデュッセウスのストーリーは、ホメーロスの『オデュッセイア』に詳しく書かれていますから、これを機にギリシア神話の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。

なお、ギリシア神話には、アルゴス以外にも犬が登場するいくつかの名作があり、世界中で多くの人々から親しまれています。
地獄の番犬として知られるケルベロスや、「飼い犬に噛まれる」でもお馴染みのアクタイオンの話は特に有名で、興味深い独特の世界観を楽しむことができます。

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。